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美しき緑の星 世界のタブーに触れすぎて上映前に中止&発売禁止になった幻のフランス映画

美しき緑の星-La Belle Verte- (PV)

フランス映画『美しき緑の星』──軽やかな笑いと静かな感動が心に残る、未来へのメッセージ

「私たちが“当たり前”と思っている暮らしは、本当に自然なのだろうか?」

そんな素朴で本質的な疑問を、ユーモアと優しさをもって私たちに投げかけてくれるフランス映画があります。それが1996年に制作された映画『美しき緑の星(La Belle Verte)』です。

この作品は派手な特撮もヒーローの活躍もありません。それでもなお観た者の心にそっと種を植え、じんわりと芽を出すような、そんな不思議な力を持っています。

調和に満ちた“もうひとつの星”から見た、地球という惑星

物語の舞台となるのは"美しき緑の星“と呼ばれるどこか遠い宇宙にある理想的な惑星。そこでは人々が自然と調和しながら、貨幣経済も電気も不要とする自由で平和な暮らしを営んでいます。争いも階級もなく、子どもたちはのびのびと成長し、大人たちは互いに支え合いながら生きています。

ある年、この星の住民たちは地球との交流を議題に会議を開きます。しかし誰ひとりとして、地球へ行きたい者はいません。なぜなら地球は、彼らにとって“過去の過ちを繰り返し続けている星”だからです。

唯一、手を挙げたのが主人公の女性ミラ。彼女は“何か”を確かめるため地球行きを志願します。そして舞台は1990年代のフランス・パリへと移るのです。

シンプルな視点が映し出す、地球社会の「異常」

ミラが地球で体験するのは、私たちから見れば何の変哲もない日常生活。人々が車に乗り、街で喧騒の中を歩き、時間に追われ、ニュースや政治、流行に振り回されながら暮らしている――そんな日常です。

けれど自然と一体となった暮らしを送ってきたミラにとってそのすべてが異常に映ります。

電気を止められると人は機能しなくなり、お金がなければ食べることすらできない。上下関係や肩書・規則に縛られた生活。人々は自由の名のもとに、実は非常に制限された世界で生きている――。

こうした描写は、あくまでコメディタッチで軽やかに描かれます。しかしそのひとつひとつが私たちの当たり前を鋭く問い直すように働きかけてくるのです。

監督・主演を務めたコリーヌ・セローとは?

本作の脚本・監督・主演を務めたのはフランスを代表する映画人コリーヌ・セロー(Coline Serreau)。彼女はフェミニズムや環境問題に早くから関心を寄せており、本作にもその視点が色濃く反映されています。

しかしセローの真骨頂は押しつけがましさを感じさせないところにあります。どんなに社会風刺が強くてもそれを笑いや温かさで包み込み、観客自身が自然と気づくような構造を作ることに長けているのです。

また映画に登場する子どもたちや市民の演技も自然体で、劇的すぎずリアルすぎず絶妙なバランスで物語に引き込まれていきます。

文明批判ではなく人間回帰への希望

『美しき緑の星』は決して今の文明や技術を全面的に否定する作品ではありません。むしろテクノロジーを超えたところにある“人間本来の力”に気づこうと促してくれる作品です。

例えば作中には通信や同期といったテレパシーのような不思議な能力が登場します。これはSF的な演出であると同時に本来の人間に備わっている感受性を象徴しているのかもしれません。

また「つながること」「助け合うこと」「笑い合うこと」といった、極めてシンプルで人間的な営みの大切さが、作品全体を通して穏やかに描かれていきます。

観たあと、静かな変化が起こる映画

この映画にアクションシーンや派手な展開はありません。しかし観終わったあと、不思議と身の回りの風景が違って見えてきます。電車の中でスマホに夢中になる人々の姿、食卓のメニュー、近所の木々の葉の色――。

どれもが「これは本当に自分の選んだ生き方なのか?」と問い直すきっかけになり得るのです。

つまりこの映画は観客に変われと迫るのではなく、気づいてもいいんだよとやさしく背中を押してくれる作品なのです。

映画版(DVD版)書籍版があり、映像ではかなり脚本がカットされているので、映画を見たうえでさらに書籍でカットされた脚本を補完するとよりこの作品を理解できます。


基本情報

原題 La Belle Verte
監督・脚本・主演 コリーヌ・セロー(Coline Serreau)
制作年 1996年
ジャンル ヒューマン・コメディ / 社会風刺 / SFファンタジー
上映時間 99分
言語 フランス語(日本語字幕あり)
視聴方法 一部の動画配信サービスやDVDにて視聴可能。インターネットを通じて根強い人気がある。日本でも上映会が開催されている。
公式サイト

まとめ:これは未来から届いたメッセージかもしれない

『美しき緑の星』は文明の未来像ではなく人間とは何かという根源的な問いにやさしく迫る物語です。

多少コメディ要素が強かったり物質文明の価値観を持っている我々には違和感がありますが、精神文明を享受する異星人たちの世界はきっとこんな感じだろうというイメージが湧きます。

イエス・キリストの扱いや貨幣経済の批判など、宗教や金融のタブーに触れたことで上映や発売が禁止されたのではないかと思います。

もしも、あなたの中に「今の暮らしに少し違和感がある」「もっとシンプルに、自然に生きたい」という思いがあるなら、この映画はきっとあなたの心に響くはずです。

それは未来から届いたやさしいメッセージ。受け取る準備ができたらそっとこの作品を開いてみてください。

コリーヌ・セロー監督 人類を目覚めさせる映画「美しき緑の星」【アネモネ2019年7月号取材動画】

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Posted by Coro