種苗法改正案で得するのは農家ではなくグローバル企業か?
先日女優で歌手で実業家の柴咲コウさんがTwitterで種苗法改正案について警鐘を鳴らすと、賛否が入り乱れて炎上し良くも悪くも注目を浴びました。
この法案については非常に複雑で批判する人も全貌をよく理解しないまま叩いている印象です。
柴咲コウさんは少なくも農家のためを思っての発言と受け取れますが、農家と思われる人からの反発もあり、彼女自身も困惑しているのではないでしょうか。
目次
泥棒は狙った獲物は逃さない
種苗法改正案に賛成する人の意見は、韓国や中国やオーストラリアなどで日本の品種が不正に持ち込まれ栽培されることの抑制に繋がることを期待しています。
もし国内で暗躍するブローカーがいるのであれば一定の抑止力にはなりえますが、完全に防ぐことは物理的に不可能でしょう。
●海外での品種登録の重要性
種苗などの国外への持ち出しを物理的に防止することが困難である以上、海外において品種登録(育成者権の取得)を行うことが唯一の対策となっています。
これまでも農林水産省が海外での品種登録が唯一の対策であると言い続けてきました。
泥棒は例え玄関の施錠をしっかりしても窓を割って侵入し盗んでいきます。
そしていくら国内の法律を強化しても外国籍で海外へ逃げてしまえば効力を発揮しません。
現行法でも登録品種の持ち出しは禁止されており、改正したからといって防げるわけではないことを理解しなければいけません。
なぜ登録品種が持ち出されるのか?
韓国のイチゴ問題に関しては当時の韓国では品種の権利を保護する制度が整備されておらず、そんな無法地帯で品種改良に熱心な隣国があれば、盗んで売った方が楽だという発想が生まれるのも当然です。
2012年以降は韓国でも先進国並みに海外品種の権利を保証することになり、それを回避するため国策として日本品種同士の交配を繰り返しました。
そして生み出された良質な日本品種のコピーが韓国品種として市場に出回っています。
日本品種も元親をたどればアメリカ品種だったりするので、世界中で品質の良い品種を掛け合わせるのはごく自然に行われてきました。
ただ日本人が物凄い熱意で品種改良に取り組み生み出した品種を簡単に盗まれたことが強い憎悪に結びついている気がします。
商標によるブランド化が必須の時代になるか
イチゴの品種改良ブームの火付け役なったとちおとめは1996年に品種登録され、当時の法律では育成者権の有効期限が15年で2011年に育成者権が消滅しました。
打倒とちおとめとして作り出されたあまおうは品種の名称ではなく、品種名は福岡S6号として登録されています。
あまおうは商標名であり永続的にブランド化することを目的としています。
対してとちおとめは全国に普及させるために名付けられたので、全国でとちおとめが栽培されています。
本当に国産イチゴを守りたければ、海外で商標登録してブランド化させるしか方法がないのです。
これまで日本の農業が商標を上手く活用してこなかったのが、海外流出の大きな要因となっているに違いありません。
登録品種 (育成者権) には有効期限があるので、例え盗まれてもいずれ一般品種に戻ってしまいます。
また次世代の品種を生み出しても名前を引き継げないので、ブランド化して価値を引き継いだ方がビジネスとして優れています。
種子法の廃止
種子法は主要穀物のみが対象でしたが、種苗法はすべての作物が対象になります。
種子法の廃止は郵政民営化や水道民営化などと同様に今まで国が守ってきた権利を民間に明け渡す行為です。
日本のお米が安く食べられるのも国策として農家を支えてきたからこそです。
農業競争力強化支援法
種子法にせよ種苗法にせよそれ単独で動いているわけではなく、農業競争力強化支援法という大枠のなかの一部として組み込まれています。
これまで国や都道府県が蓄積してきたデータやノウハウをすべて民間へ開放し、自由競争によって農業の多様性をもたらすのが建前としてあります。
民間が開発した種苗は価格が高く、自由競争が始まれば農家はそうした種苗を買わざるをえません。
これは陰謀論的に言えば誰かのビジネスが有利になるように仕組まれた可能性が否定できません。
果たしてそれが外国企業なのか財閥系なのか真実は知る由もありません。
品種登録のハードルが引き下げられる
改正案では品種登録するための出願料が1品種47,200円から14,000円に引き下げられています。
また毎年支払う登録料も36,000円から30,000円に改められています。
これにより近年ただでさえ増えている品種登録の数がさらに増加することは確実でしょう。
農林水産省がわかりやすい表を堂々と掲載しています。
日本で作られている品種の9割は一般品種だから安心だというメッセージです。
しかし見栄えの良いものこそまずは疑ってかからなければいけません。
一般品種のなかで登録品種に対抗できるほど優れた品種はどれだけあるのか?
登録品種の数がこれから増え続ければ登録品種が市場を圧巻するのではないか?
もし育成者権を持つ一部の権力者が日本の農業を支配することになれば、日本の食文化は様変わりしそうです。
種苗ビジネスへの優遇措置か?
国産品種の種苗を守ることは意見すると素晴らしいことですが、いまや日本の種苗業者はグローバル企業といってよいです。
そして上を見れば強大な海外の種苗業者がずらりと並びます。
農薬大手のバイエルが種苗ビジネスを行うモンサントを買収して巨大化したり、種苗と農薬の大手同士が経営統合することで権力を増しています。
種苗業者にとっては朗報かもしれませんが、普通の生産農家は種苗ビジネスの餌食になる懸念があります。
今でも種苗を買うと農薬から肥料や販路まで厳しく制限され、種苗業者が農家を操るようなパワーバランスが見受けられます。
法改正によってその傾向が強まれば種苗業者だけ得して農家の自由は奪われます。
かつてモンサントがこの手法を悪用して世界中で多大な被害を出しました。
自社の遺伝子組み換え作物の種が風に乗り近くの畑で交雑すると、その権利を主張し農家が裁判で敗訴したという判決が過去にありました。
これまで税金で守ってきた研究機構の数が減れば農業予算を削りやすい、このような法案は官僚からの反発も受けず通しやすい。
民営化は消費者にしわ寄せが行くことがほとんどですが、農業に関しては市場が野菜や果物の価格を決めるので負担が農家へ集中します。
種苗の価格が上がったからといって野菜の価格を上げることはできないので、種苗業者と消費者の間で農家は疲弊していきます。
最後は消費者が農作物に何を求めるか
形がそろって味や香りが安定したF1品種 (一代交配) が多く市場に出回っていますが、そうさせてしまったのは消費者であり、不揃いな在来種や固定種を栽培する農家は少数派です。
甘さや食感などを追求するために品種改良を繰り返すことで、次第にビジネスとの結びつきが強くなり、権利を主張する者が現れて食の安全を脅かすまでになりました。
強力な権利付きの種苗を泣く泣く買わされ、種苗業者の思うままに操られる農家が増えれば、市場に並ぶ野菜は多様性どころか選択肢が無くなります。
種苗法が改正したとして市場が今のまま変わらなければ良いですが、グローバル企業が参入してきたり、国内の大企業が種苗ビジネスに目をつけて権力を振るうかもしれません。
農業競争力強化支援法の特例を受けた企業がすでに存在し、国からお金を支給されながら意見を言える立場にあります。
そうした企業は基本的に自分たちが有利になるよう環境を改革していくはずです。
市場がどのように変化するのかはわかりませんが、結局は消費者がどんな野菜や果物を求めるかによるので、農家はその要望に答えるしかありません。
最後に今回の記事を書くにあたり参考になった動画を紹介します。
実際に農業を営んでおり種苗法改正案について深く掘り下げた内容です。
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